リンパ浮腫ギフト


「今が一番たのしい!」
~無理なく、自分らしい“今”を生きる~

押渕医院
院長
押渕素子先生

続発性下肢リンパ浮腫

みなさまがご存じのように、医療の進歩により年々私たちの寿命が伸びています。同時にがんの罹患者数も年々増加し、昭和56年以降日本人の死因の第一位はがんであり、年間30万人以上の方ががんでお亡くなりになっています。
また、私たちが生涯のうちにがんに罹患する可能性は、男性の2人に1人、女性の3人に1人と推測されています。
(引用 : 厚生労働省ホームページ https://www.mhlw.go.jp/seisaku/24.html)

以前は「がん=死」を連想していましたが、近年では外科手術の技術のや抗がん剤の種類、薬剤の組み合わせ、投与スケジュールや放射線治療などにより、がんに罹患した方の生存率は劇的に改善し、いわゆる「がんサバイバー」と言われるがんの治療が終了し、5年後、10年後も元気に生きておられる方がたくさんいます。
(参考 : がん情報サービス https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html)

その反面、がん治療による合併症の一つである「続発性リンパ浮腫」を発症し悩まれている方も年々増加しています。

この度、卵巣がんを発症後に右下肢リンパ浮腫を発症された押渕素子先生(押渕医院 院長)にご協力いただき、リンパ浮腫の発症から下肢のケアにおける悩みや工夫、同じ悩みをかかえる患者様やご家族さまへのメッセージをお伺いしました。



がんの手術後にむくみを自覚してからリンパ浮腫だと診断されるまで、どれくらい時間がかかりましたか?

2015年に卵巣がんの手術を受けた後、抗がん剤治療の途中で左脚に激痛を伴う浮腫みが急に現れ受診しましたが、その時の浮腫みは一過性のものでした。おそらく術後に無理をして動いたことが原因だと思います。

すぐにリンパ浮腫外来を紹介してもらうことができましたが、リンパドレナージの施術を受けられる施設が近隣になかったため、特にドレナージなどのケアは受けず、自己流でケアをしていました。 術後1年が経った時、突発性難聴を発症し治療薬のステロイドの副作用で食欲が増進し、一気に体重が増えたことをきっかけに右下肢にリンパ浮腫が出現し、悪化しました。

リンパ浮腫に対する「複合的理学療法」が2016年から「リンパ浮腫複合的治療料」として診療報酬の対象となりましたが、保険診療で治療を受けられる医療施設数、自費診療でケアをサポートしてくださる治療院やサロンの数は、ともにまだ十分にはありませんね。

リンパ浮腫を発症後、2017年~18年にかけて3回のLVA手術を受けました。
私は他の人よりも比較的早く情報をもらっていると思いますが、当初はあまり真面目に向き合っていませんでした。もっと早く「リンパ浮腫は大変だ!」と自覚していたら、体重コントロールやケアをして、こんな脚にはなっていなかったと思います。

誰しも、手術後は少し腫れたとしても自分の手足がこんなに腫れて、長引くとは考えないですよね?

そう!油断しました。手術前に説明を受けているはずですが、さらっと聞き流していました。手術前の説明で「リンパ浮腫になるとこんなに大変だよ!」ともっともっと強く言って欲しかった。そうすれば、早く弾性ストッキングを履いて、ドレナージやスキンケアを頑張っていたと思います。



がんの治療やその後の生活、お仕事のことなど、色々考えることがあり、将来発症するかもしれないリンパ浮腫の説明を手術前に受けてもあまり記憶にのこらないでしょうね。情報を伝えるタイミングと内容が大事ですね。

自分自身の経験から、私の外来に通院されている前立腺がんや乳がんの術後の方は、鼠径部の痛みが出たときや患側に軽い浮腫みが出たときに、早い段階で拾うことができていると思います。

しかし、漢方(五苓散)などの投薬は続けてくれるのですが、リンパドレナージなど専門的治療を受けるよう勧めてもなかなか行ってくれません。
近隣に専門施設が無く、一番近い施設でも高齢者が行くには遠いため、専門的なケアを受けてもらうことが難しいです。リンパ浮腫の治療は地域による格差と個人の金銭的状況が大きく影響しますね。

現在、ご自身でリンパ浮腫の治療やケアを管理、マネジメントされていますが、必要な情報はどこから、どのように集めていますか?

最初はInstagramやネットで調べたり、グループLINEに入って情報収集していました。今は、現状に満足しているからか、新しい情報をゲットしようとしていないですね。

もちろん、日々のケアを続けるのは大変だと思いますが、今のところ、弾性ストッキングを履くなどのセルフケアをされている状況で、ある程度満足しておられるということですか?

昔は「腫れた足をもっと細くしたい!」と思っていましたが、痩せなければ細くならないということに気づいて「結局、自分次第だ!」と考えるようになりました。今は仕事はできているし、やりたいことは全部やれているので「まぁ、いいか」と思えるようになりました。

欲を言えば、弾性ストッキングを履かずに一日を過ごしたい、服に合わせて脚を出せると嬉しいですが、今まではショートブーツだったのが、今年はふくらはぎまでのロングブーツが履けるようになったので、「まぁ、いいか」です。




今は弾性ストッキングの着用がメインで管理されていますが、その他リンパドレナージなどは受けておられますか?

以前はリンパドレナージに月に2回行っていましたが、今は月に1回のペースです。月に2回だとスケジュール的にきつく、「行かなきゃ!」と自分を追いつめて精神的にもきつくなっていました。

脚の計測とむくみの柔らかさをチェックしてもらい、全身のメンテナンスの意味で施術を受けています。今、通っている治療院が鍼灸マッサージもされるので、脚以外の部分も一緒にケアしてもらっています。

治療院でのメンテナンス以外は、ご自身でセルフケアをされていますが、続けるのは大変ではないですか?

できるだけ簡単なケアにしています。夜は夜間用の着衣を履いた上に筒状包帯で圧を加え、つま先部分は細かい凹凸のあるパッドに5本指ソックスを重ねています。履き重ねるだけなので、1分くらいで着けることができ、脱ぐのも簡単です。朝はしっかりパッドの痕が付いて皮膚が柔らかくなっているので、効果は出ていると思います。

包帯は巻かなくなりました。巻いた方が良いのかもしれませんが、上手に巻かないと効果が出ないし、逆に痛みが出たりして、上手に巻くのが大変なので諦めました。

最近、オーダーメイドのストッキングを作りました。すごく調子がいいです!足先の皮膚の状態が良くなりました。今までは足を細くしたい一心で小さいサイズのストッキングを無理に履いて、足首やくるぶしに圧をかけすぎていたのだと思います。オーダーメイドのストッキングのお陰で足の左右差が小さくなりました。


ありがとうございます。調子よく過ごしていただけて、私たちもうれしいです。
最後に、他のリンパ浮腫患者さんやご家族に伝えたいことやアドバイスを教えてください。

まずは「リンパ浮腫をあなどるなかれ!」ということです。リンパ浮腫が一生付き合う病気であることを早く知って、早くケアを始めるべきです。
つぎに「リンパ浮腫ギフト」を実感すること。

一病息災、リンパ浮腫があって良かったとは言わないですが、リンパ浮腫があることで無理をしないように気を付けて生活するので、他の病気にならず元気に過ごせていると思います。
そして、リンパ浮腫だから「これはダメ!やってはいけない」と諦め過ぎないこと。海外はまだ行けていませんが、飛行機に乗って国内は旅行に行っています。ペティギュアもやってはいけないと指導されましたが、感染などに気を付けながら楽しんでいます。


ご協力ありがとうございました。

リンパ浮腫のケアも試行錯誤、取捨選択しながらできること、続けられるケアを日常生活の中に取り入れて、良い状態を保たれているところが素晴らしいですね。リンパ浮腫は個々の患者様で状態が様々なので、それぞれにあった工夫をしてやりたいことをしっかり楽しんでいただくことが大事ですね。





押渕素子先生は長崎県松浦市にある押渕医院の院長として地域医療に貢献されると共に、松浦市が掲げる「全ての市民が最期まで自分らしく生きてほしい」「その思いが大切な人に伝わってほしい」という思いから作成した「ありがとうノート」の作成にも携わっておられます。


在宅医療における多職種連携と人生会議について分かりやすく説明をした動画「モコちゃんに看取られる」(YouTube)で主演を務めておられます。
https://www.youtube.com/watch?v=zrnk44diOHc

☆いつかは誰にでも医療や介護などの支援を必要とするときが訪れます。
☆あなた自身とあなたの大切な人のために、自分の思い・希望をきちんと文字に残しておきましょう。
☆自分の望みや希望などについて、家族や大切な人と繰り返し話し合うプロセスがとても大切です。
(引用:長崎県松浦市ホームページ)
https://www.city-matsuura.jp/top/soshikikarasagasu/chojukaigoka/1/4180.html

ぜひ一度ご覧になってください。



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